昼の光から逃れるために

 天国の片隅には秘密のプラネタリウムがある。  小ぶりなテントの中に設えられた座席の数は全部で六つ、上映回ごとにいつもあっという間に満席になる。プラネタリウムがオープンするのは、太陽の出ている間だけだ。夜明けとともにテントの入り口は開き、日没とともに閉じる。空に星が灯りはじめる頃には、テントは跡形もなく消えてしまう。    天井に投影されるのは、わたしたちには見えない星空である。  天国の季節は、地球のそれとはすこし勝手が違うのだが――たとえば冬に夏の星座を、夏に冬の星座を映すのと同じように、テントの中には遠い星空が現れる。  わたしたちは、黙ってその星空を見つめる。  言葉を交わす者はいない。そもそも、誰かと連れ立ってここへ来る者など、いない。誰もがひとりきりでやってくる。上映の間、隣に座るのは、必ず赤の他人だ。もちろん、何度か訪れるうちに常連同士の顔見知りはできる。だが、それでも、会話はしない。挨拶もしない。目があったときの、反射的な会釈がせいぜいといったところ。  テントの主も、何も喋らない。わたしたちから入場料を集め、プラネタリウムのスイッチを入れた後は、上映が終わるまでずっと黙っている。解説の音声も、もちろんない。必要がない。わたしたちは、永遠に見ることが叶わないこれらの星座について熟知しているから。  それは地獄から見る星空なのだ。
短編集『永遠の不在をめぐる』掲載作品 執筆元:即興小説 お題「昼間のパラダイス」