愛している、愛している、愛している

 妻の出産前日にうっかり死んでしまったので、僕は血の気の耐えた顔を真っ青にしながらものすごい勢いで転生届けを書いた。魂が体を抜けたときにはもう書き終えていたくらいだ。そういう訳で、神の前に立ったとき、僕は言葉を発するよりも早くその転生届けを神に向かって叩きつけた。 「悪いが待っていられない。もう陣痛が始まってるんだ、一刻も早く僕を地上に戻せ」 「無茶を言ってくれるな。おまえ、まだ心肺停止から五分と経っていないだろう」 「今なら何に転生できる? 彼女の子に――ああ、だめだ、女の子なんだった――もう名前まで決めてあったのに――いや、彼女の傍にいれるなら女でも何でも良い、さあ早く、今すぐ、僕を転生させろ、彼女の傍らに!」  僕は神の胸倉を掴んでぐらぐら揺さぶった。神は涼しい顔で言う。 「三百年待ちだぞ」 「なんだって?」 「おまえの国は豊かだから転生先として人気なんだが、ここ最近の少子高齢化でね、転生の予約が詰まってるんだ。人間に転生するなら三百年かかる」 「冗談じゃない!今すぐ転生できるとしたら何がある?」 「無機物なら明日にでも」  僕は絶句した。無機物。よりによって。猫でも木でも鳥でもなく。彼女に触れることも何もできないじゃないか。  それでも、三百年を耐えるよりはましだと思った。  僕は彼女の家に電気を送る電柱へと転生した。ひとり残され、子を育てる彼女のために、毎日、毎日、電気を送りつづけている。その電気の流れに言葉を絶えずのせながら。
執筆元:即興小説 お題「愛すべき恋」