昨日に引き続き、misskeyに投稿した読了感想をブログに掲載します。
小町紗良さんの文学フリマ東京38新刊『ミス・ブルーのこと』ネタバレ感想です〜!
misskeyの内容そのままなので、文体は相変わらずラフです。読了済みの方向け。
『ミス・ブルーのこと』について
ブラックコーヒーのようにほろ苦い群像劇が収録された短編集。
洋画のシーンを感じさせる情景描写と、ドライな(そしてときどき可笑しい)文体が心地よいです。
紗良さんの既刊『メリー・ハッピーエンド』や『かわいい女の子は私の小説なんか読まない』にはどこか海外の児童文学めいた雰囲気を感じますが、今回はソリッドな“現実”のおはなしでした。この街に物語めいたハッピーエンドはない。そこが好き。
#文学フリマ東京38 #文学フリマ
— 小町🐈⬛文学フリマ東京 い-13 (@srxxxgrgr) May 18, 2024
💙第二展示場 Eホール い-13 少女こなごな
💙【新刊】ABOUT Ms,BLUE ミス・ブルーのこと
💙¥600/B6/P98/短編集
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PRのためにプロローグを書きおろしました。
場末のジャズメンがくだを巻いています。 pic.twitter.com/eMxO2EoVRf
感想
(元ノートはこちら: https://misskey.design/notes/9u252zsq1o )
(収録作の中でも)やっぱり好きなのは「雨傘」と「GO NUTS」ですね…!!
今回はわりと発行前から「これまでとは作風が違う」とアナウンスされており、表紙の佇まいも過去の御本とだいぶ雰囲気が異なり、読む前から楽しみにしていました:)
ハードボイルド…というかソリッドな感じというか、たしかにより容赦のない、影の側面が強い作品群だと思うんですけど、
紗良さんの仰る「荒涼としたレコードB面」の方がもしかしたら私はより好きかもしれないと感じました コーヒーもブラック派なので…(?)
ただ、これらの荒涼としたテーマは、『かわいい女の子は私の小説なんか読まない』『メリー・ハッピーエンド』などの、よりガーリーな物語にも常にひそかに流れていたというか、繋がっているな〜〜と強く思います。そこが好き…
冒頭の「バンクシーかもしれない」に登場する、蝙蝠傘とトランクを携えた朗らかなネズミ、すごく海外児童文学の登場人物らしさがあるんですよね あるいはディズニーかもしれない
ごく当たり前に喋る、人間もそれにいちいち驚かない、そういう街の物語である…という導入役でもあると思うんですけど、それが、数ページであっさりと轢死体になってしまう
私、ここまでは文学フリマ当日に店番しながら読んでたんですけど、笑っちゃいましたもん 理不尽が直撃したとき思わず笑うときのあのアレ
短編集全体の不穏さや哀しみを予告する作品でもありますよね……。これは児童文学ではなく、圧倒的な現実の話であるという
居なくなってしまうものたちのお話
「雨傘」は公開当時から好きだったお話です
misskeyのリアクションを盛り込んで書く、という縛りを感じさせないのがもう凄いところに、描かれる情景が良くて……
降り止まない雨、火事の炎、濡れた路面、鮮烈なスクリーンの光と、ちょっと汚い生活の気配が同居しているところが
わたしに映画の教養がなくて『雨に唄えば』も『ショーシャンクの空に』も未見なんですけど、降り止まない雨の中でとりとめもないことを喋りながら(ついでにスラックスの裾を濡らし濡らされながら)歩く男性ふたりの、不均衡な友情(そもそもそこに在ったのは友情なんだろうか?/憐憫、罪悪感、贈与、善行…)は、本書でいちばんロマンチックなシーンではないかと思うのですが、どうでしょうか…
で、「GO NUTS」ですが、いやあ〜〜…w
ガサガサの三人称文体で綴られる破茶滅茶な崩壊がもう、悲惨で哀れなのに、笑わずにはいられない
彼が歌っていたのでEleanor Rigbyを十年ぶりぐらいに聞き直しました “Ah look at all the lonely people”…!
好きなところ言っても良いですか? 蠢くカバンを「わかったわかった、落ちつけ」ってあやしながらダッシュするところです もうメチャクチャなんだけどなんか分かってしまうというか、そうしてしまう彼の愚かさとか善性とか……
トリッキーでエキセントリックなトウモロコシ…トウモロコシかあ……🌽
Eleanor Rigby聴きながら読むと悲惨とギャグに脳を引き裂かれる感じがあって楽しいですね
紗良さんの三人称文体もっと読みたいです
これは短編集全体に対してですが、明らかに悲惨で崩壊しているのに、どこかカラリとした明るさと笑いがあり、生活の匂いが強く漂うところに、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』を思い出したりもしました
「駆け落ちはバニラの味」は主人公ライカが少女であるのがなおさら物悲しいですね……。
児童文学のようでもあるのに、物語めいたハッピーエンドは訪れず、「置いていかないで」という悲痛な声が残る
彼女の悪夢も恐怖も、現実に実在するもので、彼女のように取り残された少女が現実にも(物語にも)たくさん居るんだよな…という思いがあります
いつか大人になれたらBのように街を出ていけるのかもしれませんが、そのときライカもまた誰かを置いてゆくのだよな……
不思議はあっても魔法はない、現実に閉じ込められる人々と逃げ延びてゆく人々の、ほろ苦さが残る素敵な短編集でした
little black dressの皆さんの話も楽しみにしています!!!!
(彼女たちもまた苦さを抱え、そしてそれを越えてゆく人々だと思うので…)