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ありがとう、ペーパーマリオRPG

ありがとう、ペーパーマリオRPG

本記事は、2024年5月23日に発売された『ペーパーマリオRPG』Switch版への熱い感想記事です。ネタバレ全開だぞ!
Twitterで既に散々大騒ぎしたとおり、マジで良いリメイクだったので20年前のゲームキューブ版発売当時からのファンとして感謝をしたためておきたいと思います。ありがとう任天堂。ありがとうインテリジェントシステムズ。すべての関係者のみなさま……ありがとう………


ペーパーマリオRPGという傑作

元々『ペーパーマリオRPG』は、2004年に発売されたゲームキューブ用ソフトでした。
ゲームキューブがプレステ2に比べてやや低調だったこともあり、他のマリオ系ソフトに比べるとやや知名度で劣るかもしれません。マリオカートやマリオパーティはだいたい皆がプレイしたことあるけど、ペーパーマリオは「あ〜なんかそういうのもあったね」くらいの方が多いじゃないんでしょうか。

でもめっちゃ良いゲームだったんですよ。前作『マリオストーリー』の正統続編、ジュブナイルのような王道冒険譚でありながら意外性に溢れていて、懐かしいのに新鮮だった。
それはもう、一人の子供の人生を、ちょっと変えてしまうくらいに。

ゴロツキタウンの中央広場にて、マリオとクリスチーヌの対面シーン「あたしはクリスチーヌ! クリフォルニア大学の三年生よ よろしくね」

いちばんの特徴は、やはり『マリオストーリー』から引き継がれた個性豊かな仲間キャラクター達でしょう。
皆それぞれの能力で力を貸してくれる上に、フィールドを一緒に歩けるし、イベント台詞にも全員の差分がある。連れ歩く仲間は好きに変更できるので、プレイした人の数だけ、どの仲間といちばん一緒にいたか、という異なる思い出がある…!!
私はたしか初回はビビアンばかり連れ回して、二周目以降はひたすらクリスチーヌと一緒にいました。当時はめちゃくちゃ大人のお姉さんに見えてたなあ、クリフォルニア大学三年生の考古学者の卵、クリスチーヌ……。

仲間キャラクターだけでなく、街を歩くNPC達も強烈な個性を持ってるところがたまらなく愛おしいです。

ゴロツキタウンの東エリアにて、ピエールとの会話「よう ヒゲのダンナ! オレさま むしょくピエールのことを おぼえていてくれたかい?」

しかも名前や背景情報テキストまであったりする。活字中毒からしたらもう楽園ですよ。
(クリスチーヌの台詞量はマジで尋常でなく、各NPCと敵キャラクターの背景情報に加えて、各フィールドに関する個別コメントも多分軽く100以上あります)

ゴロツキタウンの裏路地にて、クリスチーヌによる解説「クリボーの マークリーよ おたずねもので この街に にげてきたみたいね」

彼らの台詞はゲーム進行に沿ってどんどん変わっていくので、話しかけるのが楽しくて。
家庭崩壊してる家族が徐々に改善していったり、落ちこぼれのゴロツキが足を洗って学者に復帰したり、かと思ったら最後まで全然変わらない怠け者もいたり、そういう些細なドラマが冒険の裏で無数に展開しています。何……?このゲームは……
NPCの台詞が楽しいというのは『MOTHER』シリーズも同じですが、ゲーム進行に沿って拠点のNPC数十名が徐々に変化していくRPGというのは、当時も現在もわりと珍しい気がします。『MOTHER3』がちょっと近いかな?

可愛らしいビジュアルから繰り出されるブラックユーモアも良いんですよ……まあ拠点の街が「ゴロツキタウン」という治安おしまいタウンな時点でだいぶ狂気の領域ですよね。これで企画通した20年前のスタッフさんすごい。前作の拠点は朗らかな城下町キノコタウンだったのにこの落差。
子供の頃は気づかなかったんですが、ゴロツキタウンの治安の悪さってだいぶ折り紙付きというか、格差がかなり意識的に描かれてて今見るとびっくりします。

ゴロツキタウン中央広場にてマリオとクリスチーヌの会話「このゴロツキタウンったら やんなっちゃう! ヘンなヤツらが あちこちを ウロウロしているんだもの!」背後でマフィアが盗賊団をボコボコにしている「おれいまいりだ!」
  • マフィアと盗賊団が抗争し、それぞれ東西を支配している
  • マフィア支配の裕福な西エリアには直営カジノがある
  • 列車と飛行線(どちらも裕福でないと乗れない)乗り場も西エリアにある
  • 盗賊団支配の東エリアはマジで治安が悪い(コインをスられるイベントまである)
  • 西エリアは子供と女性が一人で歩いているが、東エリアにはいない
  • 東エリアから行ける街の地下はさらに行き場のない人々が集まっている
  • 表通りと裏通りでも雰囲気がガラッと変わる
  • 治安の悪いエリアほど汚い

マリオのゲームか?これが……(好き……)
まあ言うてジュブナイルなので、最終的には盗賊団もマフィアも良い奴でマリオに力を貸してくれるのですが、この妙な生き生きしたリアリティ、現実に存在してそうな『街』のミニチュアが息づいてるな〜と思います。闘技場ウーロン街も闇が溢れてて趣深いよね。

こういうこと毒づくNPCがいるところも大好きだよ。

ウスグラ村にて、厭世的なカラス「でもね…人間が そんざいするかぎり すみにくいのは かわらないと おもうな…」

(ところで2004年のペーパーマリオRPG任天堂公式ページは、なんとまだ残っています! table要素でWebサイトが作られていた頃の歴史遺産ですねもはや)

20年越しの復活

そんなペーパーマリオRPGですが、発売から20年、バーチャルコンソールには一度も収録されないままでした(前作『マリオストーリー』はWiiUでもSwitchでも収録済)。ゲームキューブがないとプレイできない。リメイクもされる気配がない。ただ、その傑作ぶりを語り継ぐ熱心なファンも絶えなかった。
そもそもペーパーマリオシリーズが、次回作『スーパーペーパーマリオ』以降アクション路線に舵を切り、仲間システムもなくなり(2020年の『オリガミキング』でようやく部分的に復活しましたが)、オリジナルキャラクターがNGになるなど大きく変わってゆく中、もうペパマリRPGが脚光を浴びることは無いのだろうなあ……と大体の人が思っていたのではないでしょうか。私もそう思っていました。

思っていたんだよなァ〜〜(大の字)

1ミリも予想していなかったので、ニンテンドーダイレクトでリメイクが発表されたときはマジで変な声が出ました。
ニンダイの悲鳴含め、私のペパマリに関する呻き声はTwilogに克明に刻まれてるので、行き場のない煩悶を眺めたいときにでも覗いてみてください。2010年から14年分あるから。ペパマリまたはペーパーマリオで検索!!

ゲームキューブ版の思い出

そろそろSwitch版の感想を綴りたいんですが、その前にちょっとだけ個人的な思い出話をさせてください。なにせ20年分の思い入れだから…!!!
私は、2004年7月22日に発売されたゲームキューブ版ペーパーマリオRPGにどハマりしたことが切っ掛けで、個人サイト作りと小説執筆を始めたのです。懐かしきあの頃……夏休みの攻略掲示板、お絵描きチャット、Yahoo!ジオシティーズ、ホームページビルダー……
当時書いていたのは、小説と呼ぶのも照れくさいような拙い二次創作(地の文もほぼない台詞中心のやつ)でしたが、間違いなく自分の原点で、今でも思い入れがあります。小説執筆もサイト作りもなんだかんだ20年続けてやってきたんだなあ〜〜

ゴロツキタウンの屋根の上にて、クリスチーヌによるテイルワースの解説「テイルワースよ やねの上で のんびり気ままに くらしている ぎんゆうしじんよ」

当時も今も、一番好きなキャラクターはテイルワースです。会わなくてもストーリー上はまったく支障がない、設定上の歴史を語ってくれる謎めいた吟遊詩人……。彼が語ってくれる千年前の伝説がね〜〜もう大好きなんですよ。ほんとにささやかな、でも確かに過去を想起する、極上のフレーバーテキスト!
子供の頃から吟遊詩人という存在が好きだったんですけど(主にグリム童話『ロバの王子』や村山早紀『はるかな空の東』の影響で)、トドメを刺したのは彼と言っても過言ではありません。Switch版ではアコーディオンの素敵な専用BGMに低音ボイスSEまで追加されてて情緒が焼き切れるかと思いました。何あの…どこか哀愁の漂うミステリアスな旋律は……

限界の様子。

テイルワース専用曲のほか、ゲーム内のアコーディオンはこちらの都丸智栄さんによる演奏とのことです。素敵な音楽をほんとにありがとうございます🪗

Switch版の感想

はい。やっと本題です。

夜明けを迎えるゴロツキタウン

マジで最高のリメイクだったよ…………

唯の移植ではなく、リマスターというだけもなく、ゲームキューブ版の良いところをほぼそのまま残し、不便だった点は改善、その上でグラフィックは一新し、表情差分の追加、演出の強化、大量のBGM新曲、20年以上前の設定資料アートワークまで公開とか……。
だんだん、こんな都合の良い世界があって良いのか?という気分になってきました。夢かもしれねェ。
ゲームキューブ版への深いリスペクトがなければ到底作れないクオリティだと思います。ほんとにありがとうございます。オープニングでも泣いたしエンディングクレジットでも泣いた。

20年ってけして短い月日ではないですよ。私も子供から大人になってしまったし、社会もずいぶん変わった。
時代の変化をもっとも象徴しているのは、おそらく仲間キャラクターのひとり、ビビアンでしょう。

ビビアンという「女の子」

2004年当時、ビビアンは「ほんとはオトコノコ」な可愛らしいキャラクターとして登場しました。自らを含めた「カゲ三姉妹」という名乗りを「あんたオトコじゃないかい!!」と姉のマジョリンから否定される。当初は敵だったのに「マリオとの愛に生きます」と家族を裏切り、ピンチな状況でこちらの味方になってくれるキャラクター。
エポックでしたね。マジで。
ビビアンのことを忘れないまま大人になった子供がきっと何万人もいるよ。

当時はまだトランスジェンダーという言葉も一般的ではなく、おそらく任天堂もインテリジェントシステムズも、深く考えてその設定を採用した訳ではなかったろうと思います。実際に、海外版ではビビアンは初めから「女の子」に設定を改変されていましたし。
(この辺りは、お茶缶さんの記事で纏められているので、興味のある方はぜひ!)

そんな設定を2024年にどう描くのか、ビビアンというキャラクターをそのまま尊重してくれるのか、発売前から気になっていたのですが、蓋を開けてみたら、もうめちゃくちゃ丁寧に拾われていて……涙
当時は「女の子みたいに可愛い、ちょっとヘンな男の子」という描かれ方でしたが、Switch版ではビビアン自ら「体はオトコのコだけど、ココロはオンナのコ」とはっきり述べますし、マジョリンの台詞からも「あんたはオトコだろ」系の表現がオミットされて、それがビビアンの自然なアイデンティティである、という描かれ方に変わってるんですよね。

ペーパーマリオという、沢山の子供たちが遊ぶであろうゲームで、ビビアンがそのように尊重されたこと、その裏で多くの大人が心を尽くしたであろうことを嬉しく思います。
フィクションと現実はもちろんイコールではないけど、分断されたものでもなく、相互に影響を与えながら未来を作っていくものなんですよね。やっぱり。

BGM!BGM!BGM!

もう終わりだと思ったか? まだ続きます。
Switch版のBGMがさあ〜〜〜最高じゃないですか??(急に消える語彙力)
何が嬉しいって、簡単にゲームキューブ版のBGMにも切り替えられることと、超大量のアレンジ!!
中でもステージごとに変わるバトルBGMは、オリジナル版になかった要素で、バトルを飽きさせずゲームに没入できる超強力な新要素でしたね。みんなどのステージのバトルBGMが好き? 私はやっぱステージ7っすね……

ただゲームキューブ版のBGMが素晴らしいのも間違いないと思います。特に各ステージのボス戦はもう20年間に渡って何度となく聴いてきたので、やはりゲームキューブ版の方が好きだなーと感じます。ランペル戦とか。これはもう思い入れなのでしょうがない。

サウンドプレイヤーが追加されたのもすごく嬉しいですね。
無限に聴いてたいのにSwitchがスリープしてしまうのだけが不満点です。サントラ出して♡

仲間ヒントとかいう膨大な追加テキスト

ゲームキューブ版でも、クリスチーヌにはシステム上、膨大な台詞があったことは先ほど述べました。あれ大好きだけど管理が大変だろうな〜と思ってたので、リメイク版にそのまま引き継がれただけでも嬉しかったんですよ。
そのテキストがさらに増えてるとは思わないじゃないですか。

ものしりテキストに加えて、今作から追加された仲間ヒント機能。クリスチーヌだけでなく、その時々の謎解き状況に適した仲間キャラクターがヒントを喋ってくれる…!!!?
なんでさらにフラグ管理大変そうな大量のテキストを追加しようと思ったんですか???ありがとう。愛してる。
最終ダンジョンの闇の宮殿は、仲間ヒントの台詞も終盤感が溢れてて良かったですね…。
ラスボスクリア後の平和になった世界では、ヒントの代わりに仲間たちが多彩なコメントを寄せてくれるのもめちゃくちゃ楽しい!

最高のスタッフクレジット

ゲームキューブ版にほぼ忠実なSwitch版ペパマリRPGで最も大きく変化したのは、もしかしたらエンディングのスタッフクレジットかもしれません(追加ボスとかもあるけど!)。
原作ではこんな劇場を全面に押し出したエンディングじゃなかったんですよ…!!!

エンディングの大団円。カーテンコールを迎えた舞台にキャラクターたちが集っている

それがこんな完璧な…むしろ原作のエンディングもこうだった気がしてきました(幻覚)。
マリオストーリーのエンディングパレードもそうですけど、作中のキャラクターが最後に大集合してくれるの、体験としてすごく良くてェ……これテックもいるの気づきました? わたし最初は気づかなかったです。迂闊!

ペーパーマリオRPGのメインモチーフである「絵本」そして「劇場」。バトルの度に、ステージをクリアする度に楽しんできた劇場が、最後にこうしてカーテンコールとして現れてくれたこと、演出スタッフさんに大声でお礼を叫びたいです。スタンディングオベーション!ペパマリRPG以上に劇場エンディングの似合うゲームは無いよ〜〜!!

やさしい絵本に愛を込めて

ペーパーマリオって、20年に渡って紆余曲折しながらも、「ペラペラマリオの大冒険」ってとこは一貫してるんですよね。ペラペラになれること、「紙」マリオであることがアイデンティティだと定義されている。
ただ、それはわりと、シリーズ後期からフィーチャーされてきた部分でもあるというか、少なくとも第一作のマリオストーリーは紙要素よりも絵本要素が強かったと思います。本作から紙飛行機になったり船になったりのペーパーモードが登場しましたが、背景まで何もかも紙で作られていた訳ではなかったですし。

私がペーパーマリオを愛しているのは、彼らがペラペラの紙だから、ではないのです。
彼らが、子供心に深く刻まれる、やさしい絵本から飛び出してきたようなキャラクターだったから、20年経っても覚えているのです。
やさしいだけではない、冒険も恐怖もある、名もないNPCも含めて息づく絵本のような世界を仲間たちと一緒に隅々まで歩くのが、本当に本当に楽しかった!!!

そんなゲームを20年越しに蘇らせてくれた、すべての関係者の方に心から感謝します。
2024年に初めてペーパーマリオRPGと出会う誰かが、かつて子供だった私のように、このゲームを楽しんでくれますように!

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