先日、At Sea Dayさんからのご依頼で寄稿した、掌編「クリスマスを奏でた後に」。
せっかくの年末年始なので、記憶が鮮明なうちに、こちらの小説のメイキング……というか執筆過程を書き残しておこうと思います。
小説の書き方は人によって千差万別ですが、私の場合はこうだよ〜ということで、年末年始のお茶請けがわりにどうぞ:)
着想・ネタ出し
At Sea Dayのオーナー、帆志麻彩さんからの寄稿依頼は今回で6回目です(感謝…!)。
ご依頼の際には、小説のモチーフとなる写真アートワークを複数共有いただいています。今回も候補写真は6枚ほどあり、さてどうしようかしらと悩むことしばし。「誰もいない薄明のクルーズ船デッキ」と「水平線上の太陽を収めた丸窓」の写真どちらかにしようと決め、案出しをします。
当初はクルーズ船デッキの写真にやや傾いていました。
誰もいないベンチが並んだ船のデッキ、ちょうど薄明どき、不思議な存在が写真の画角外に佇んでいてもありえそうな感じです。幽霊とか透明人間とか。
あ〜〜、でも、明らかに人外な女性、前回も書いたんだよなあ……。
と、悩みつつ、ぼんやり丸窓の写真も眺めていました。
船の丸窓はどことなく非日常的なかたちであり、色んな空想を誘います。たとえば漫画『船を建てる』では、コインランドリーの乾燥機の扉から丸い船窓を想起する場面があり、日常から非日常に飛躍・接地する空想の描写としてかなり印象的です(漫画としても詩的ですごく面白いので未読の方はぜひ読んでみてね)。
丸窓、丸窓か〜、ランドリーの乾燥機、潜水艦、宇宙船……。
あと一捻り欲しいな……。
(執筆着手が12月だったので、ぼんやりクリスマス系の音楽を聴いていた)
アッ💡 クリスマスオーナメントじゃないか?
あの丸いかたち、金属光沢に映り込む風景は、窓のイメージと重なるのではないか?
いけそうな気がしてきました。この時点で写真を決定。
ただ、風景に無機物のイメージを重ねるお話は、実は前回もやっており(日暈→ランプのガラスシェード)、もうちょっと味付けを変えたいところ。
クリスマスオーナメント…といえばクリスマスツリーか…。
樹木か………(ゲンドウポーズ)。
日本では生木のツリーはそれほど一般的ではないですが、海外では専用市場があるほど、クリスマス時期には大量のモミやその他針葉樹が売買されます。鉢植えももちろんあるけど、切花よろしく農園で伐られて出荷されてきたモミの木(幹に水を吸わせて長持ちさせる)の方が圧倒的に多い。
例年繰り返し使われるクリスマスオーナメントと、その年限りで入れ替わり立ち替わり去っていく生木のツリー……ほろ苦い対比もあって悪くない気がします。この路線で考えてみましょう。
プロットを立てる
私は無機物と無機物にお喋りさせるのが好きなので(外灯と星が会話する話とか書いたし)、当初はその方向で考えました。クリスマスをまだ何も知らないツリーと、もう何年もクリスマスを見送ってきたオーナメントによる会話劇とか。
ただ、これだと船窓とのオーバーラップが弱いな、ということで、舞台を船にします。クリスマスツリー…しかも生木…が飾られているとなるとある程度は豪華なクルーズ船でしょう。日本のクルーズ船で生木ツリー採用してるとこはないだろうから海外の船かな。
舞台を船にする以上、人間もいてほしいです。フム……書簡形式にしようかな……? ということで、初稿プロットを立てました。
- 主要人物:クルーズ船に乗っている老婦人
- 大まかな筋立て:老婦人が孫息子へ宛てたグリーティングカードという体裁。船のクリスマスツリーについて書いたのち、老婦人が考えた物語、という設定でツリーとオーナメントの会話劇を載せる
- オチ:老婦人が当初書いた話はほろ苦い結末(ツリーとオーナメントの別離)で終わるが、孫息子のために祝祭めいた明るい結末に書き直す。寄港地でカードを出すために船室から出てきた老婦人が改めて物言わぬツリーを見上げてエンド
はい。ここまで考えたけど結果的に全ボツです。
冒頭段落の書き出しまでは行ったけど、なんか違うな感がどうしても拭えなかった……まあそういうときもあります。ちなみにプロット立てながら脳の片隅にあったのはピーターラビットでした。あれも元は、ビアトリクス・ポターが家庭教師先の小さな男の子に宛てた手紙から始まった物語ですね。
資料を見る
プロットと並行して、想像・描写を助ける資料をいろいろ見ます。
巡航客船のクリスマスクルーズ情報とか。豪華客船のラウンジとか、クリスマスの飾りつけとか。主に画像検索ですが、今回はクルーズ船の公式サイトとか、クルーズ客向けの細かいFAQを読んだりしていました。
私が乗ったことあるデカい船は、主にギリシャのエーゲ海フェリー船(+日本で乗った屋久島→鹿児島間フェリー)だけなので、わりと初めて知ることが多かったです。特に船室関連。わたしフェリーでは雑魚寝しかしたことないからなあ……笑。
あと生木のクリスマスツリーがどんな具合かも調べました。実家で飾ってたのは鉢植えのツリーだったので、生木のデカいツリーって言うほど見たことなくて…。吸水用の専用スタンドを使うことを知ったのもこのとき。
ディズニーランドのデカいツリーはどんなだったっけ?(クリスマス=幼少期に体験したディズニークリスマスのイメージが私の中でかなりの割合を占めているため)と思って調べてみたら、ワールドバザールのシンボルツリーは造りものぽかったです。そりゃそうか。とはいえシンデレラ城前に生木のツリーが飾られたこともあるそうで、珍しさからかニュースになってました。
プロットをぶん投げる
あれこれ資料を調べつつ、どうしようかな〜〜と悩むこと、またしばし。
朝起きて階段を降りている最中にふとセリフが降ってきました。
「きみ、あの窓を取ってきてはくれないか」
……。
なんか良い感じの気がしたので寝起きのまま書き留めます。
これ言ってるの誰だ? ツリーか? 誰に向けて言ってる??
ともあれなんか面白そうです。この書き出しなら私も読んでみたいです。
小説書く時って、真面目にプロットのとおりに進めるときもあるけど、良い場面やセリフをフッと思いついて、その流れに一気に乗ってしまう方が圧倒的に楽なんですよね私は…だいたいその方が面白くなるし……!
問題は常に思いつけるとは限らないことです。その場合はプロット立ててボツって立ててをやるしかない。わはは。まあプロット立てる過程で場面やセリフが降ってくることもあり、両者は不可分ですね。
ちなみに、小説の書き方で「書き出しをセリフから始めるのはやめよう!」という流派があるらしいですが(ル=グウィンが言及して「そうは言ってもトルストイもセリフ開幕してるけどね〜」と書いてた)、私は普通にセリフ開幕も書きます。ただインパクトあるセリフじゃないとダレがちなのも確か。読者が(このセリフは誰の何?)ってところから始まるので。
流れに乗って一気に書く
このときたしか22日だったと思います。思いつきが新鮮なうちに、パソコン抱えて喫茶店に駆け込み、一気に書き上げます。
開幕のセリフを発するのはクリスマスツリー、として、話しかけられるのは誰か?
おそらくは周囲に誰もいない深夜、それもクリスマス後の26日、となれば、クリスマスじゅう働き詰めてヘトヘトの……ピアノ弾き。(クリスマスで演奏しまくり疲労困憊なピアノ弾き、という人物像の着想は、友人の小町紗良さんが昨年書いてらした掌編からです。あれまた読みたいな…)
クルーズを楽しませる側の人間であり、でもクルーという程でもない、船とゲストの中間に立つ人物を、ツリーの話し相手とする。
ここまで決めたところで冒頭段落。完成版から引用します。
耳元で囁かれたかのような声だった。
驚きのあまり大階段を踏み外しそうになり、巡航客船のピアノ弾きは手すりを強く掴んだ。
姿勢と息とを整え、視線をめぐらせる。誰もいなかった。きらびやかに飾りつけられた吹き抜けのラウンジは静まりかえり、クリスマスツリーを彩る電飾ばかりがチカチカと瞬いている。LEDの規則的な輝きが目につき刺さるようで、ピアノ弾きは眉間を揉んだ。とても疲れていた。クルーズに集った乗客たちのために、聖夜のあいだ船内各所でひたすらにクリスマスソングを弾きつづけ、ようやく二十六日に辿りついたのだ。いまは深夜三時、乗客もみな眠りに着いた頃だろう。自分もきっと一瞬、歩きながらに眠りこんで、夢でも見たに違いない。ピアノ弾きは重い瞼をこすり、しっかりと手すりを握り直して、ふたたび階段を降りはじめた。
およそ3000字ほどの掌編では、長々と舞台や登場人物について描写するとテンポが悪くなるため、なるべく冒頭300〜400字で現在地の提示を行います。
初稿段階ではもうちょっとザックリしてましたが、最終的に以下の情報を出すかたちに整えました。
- 現在地:巡航客船の大階段・誰もいないラウンジ
- 時間:クリスマス後、26日深夜3時
- 視点人物:へとへとのピアノ弾き
- 状況:なんか誰もいないのに謎の声に話しかけられた
ヨシ!(画像略)
冒頭時点でこれくらい情報が出せると読みやすくて良いですね。
ちなみに初稿ではクリスマスツリーのLEDについても長々言及していました。「流れる滝めいて規則的に移りゆく、シャンパンゴールドからクリアホワイト、マリンブルーのLEDが…」とかそんな感じで。
(くどいな…)と(いや豪華客船でそんな悪趣味に片足突っ込んでる派手なイルミネーションするか? もっとシックにキメてるだろ)という脳内ツッコミを振り払えなかったので最終的にカット。LEDの色は重要ではないし読者に想像いただくかたちにしました。
その後、クリスマスの買い出しに出かけた帰り道、某ロードサイドのカーショップがまさにゴールド→ホワイト→ブルーにチカチカする忙しないツリーを飾っており、若干笑ってしまったのは別の話。閑話休題。
この日、流れに乗れたので4時間ほどでラストまで一気に書き上げました。
蒼い船窓とクリスマス・オーナメントを魔法めいて重ねあわせ、最後に船室の窓から夜明けを迎えてエンドです(ほんとは最初から夜明けの窓をオーナメントにできたら綺麗だったんだけど、冬の夜明けは7-8時ごろだし、この時間にラウンジが無人ということは考えづらかった……)。
全編通して、ピアノ弾きとクリスマスツリーのセリフ応酬が楽しかったですね……こういう芝居がかった口調のやりとり、非日常感があって、たまに書けると楽しいです。
ただ、後から読み返して気づいたんですが「〜をご所望なのか?」は前話でも使っていました…痛恨! 洒脱で好きな言い回しでして……前話は少し古い時代と印象づけるために書いた台詞でしたが、今話では疲労困憊からの慇懃無礼な皮肉を込めています。
推敲
最後まで書けたところで一旦寝かせ、一晩置いてから表現を全体的に調整します。
推敲段階では主に、言葉選びや音のリズムが心地良いかを確かめたり、読者の想像に意図しない負荷を掛けている箇所がないか、無駄なノイズとなる描写がないかなどをチェックしています。あと分かりづらそうな箇所に描写を足したり。
掌編だとそこまで大変じゃないですが、長編だと、過去に書いた箇所との矛盾や見落としがないかも俯瞰することになるので一番神経を使う箇所。
ちなみに今回、推敲にいちばん時間が掛かった段落は以下でした。
トン、トンと、慎重に一段ずつ階段を降りながら、ピアノ弾きは声を無視した。ゆるくカーブを描く大階段の、その一段一段に敷き詰められた絨毯の模様だけを注視した。巨大な巡航客船はほとんど揺れを感じさせない。海の上にいることを忘れそうになるほどに、足元は安定している。ようやく最後の段に着いた。
初稿時点ではこう。
トン、トンと、慎重に一段ずつ階段を降りながら、ピアノ弾きは声を無視した。足元に敷かれた赤い絨毯の紋様だけを注視した。ようやく最後の段に着いた。
これだけでも良かったんですが、もうちょっと……
- 大階段の想像を補強したい(直線的な階段ではなく、カーブを描きながら吹き抜けを繋いでいる階段を想像してもらいたい)
- 船の上の情報を足したい(巨大な船はほとんど揺れない、という情報は知らない読者もいる)
という目的でアレコレいじりました。ピアノ弾きが絨毯の模様に気を取られて明後日の方向に思考(はあ〜〜こんな階段にまで絨毯びっしり敷いて、このデカい船全体でどれだけの絨毯使ってるんだ)を飛ばすパターンも書いたりしたけど、ボツ笑。ピアノ弾きがマジで疲れてるということしか伝わらないし、その情報はもう出してるからね…
完成!
最後に掌編全体の余韻を整えて、完成!
夢が覚めて現実に戻るような、でも夢の気配がまだ残っているような、そんな感じの塩梅を目指しています。幻想小説と言いつつ、私の作風は「こんなことがあったかもしれないし、なかったかもしれない」に収まることが多いですね。
その狭間にだけそっと存在できる(かもしれない)幻、が好きなんだろうなあ、と思います。我ながら。
執筆中のBGMは、主にJanis Crunch & haruka nakamuraの12 & 1 SONGでした。
冬の世界をイメージしたアルバムということもあって、同じく冬をテーマにした人間には見えない灯り執筆時にも聴きまくっていた記憶。私はNuitがいちばん好きです🌲
あとはピアノによるクリスマスソングを延々と聞いたり、ちょうどYouTubeで無料公開されてた「ミッキーのクリスマス・キャロル」を流したり。執筆時の気分を物語と合わせるにあたっては、日頃からかなり音楽に助けてもらっています。
以上、掌編小説「クリスマスを奏でた後に」のメイキングでした。
執筆過程を詳しく言語化してみるのはこれまでなかなか無かったので、書きながらとても楽しかったです:)
小説の書き方はほんとうに人によって様々ですが、日頃書く方も書かない方も、一事例として楽しんでいただけなら幸いです。小説を書く方、良かったらあなたの執筆過程もいつかどこかで教えてください。