リュートによる朗読音楽会+特別講演「『ロバのおうじ』をめぐる旅 そのルーツとこれから」に行ってきました!
感想やメモを書いていったら思いのほか長くなってしまいました…笑。途中からはグリム童話とか変身譚の物語類型についても管を巻いております。
イベントの詳細はこちら。
朗読 X リュート演奏 X 挿絵投影
— 永田斉子 リュート奏者&月琴奏者 (@seikolute) May 17, 2025
=朗読音楽会 「ロバのおうじ」
公演100回記念スペシャルイベント
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リュートを弾くロバの物語
「ロバのおうじ」をめぐる旅
~そのルーツとこれから
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◆2025年6月29日(日)
開場 12:30/開演 13:00
◆Book… pic.twitter.com/WBQBjLQCtP
グリム童話を再話した絵本である『ロバのおうじ』(M・J・クレイグ再話、バーバラ・クーニー絵、もきかずこ訳)は、幼少期のわたしがリュートや吟遊詩人に憧れるきっかけとなった一冊です。あと、ブログやTwitterでも何度か言及してるとおり、変身譚好きになった原因のひとつでもあると思います…笑。
版元である、ほるぷ出版のページはこちら。表紙だけでも覚えていってください。覚えましたね? Thanks……
こちらの『ロバのおうじ』朗読音楽会には、たぶん十年くらい前にも一度訪れたことがあるのですが、今回、『ロバのおうじ』の文学的なルーツにまつわる特別講演も併せて開催とのことで、ウオオオ!!と申し込みフォームを開き、勢いのままに行ってまいりました。絵本の元ネタであるグリム童話『ちいさなロバ』の朗読まであるという贅沢…!
朗読音楽会ということで、物語の朗読に併せて随所でリュートが奏でられ、旋律からも余韻を存分に味わえます。かなり前の方に座れたこともあり、イベントの間はリュート演奏される手元をめちゃくちゃ凝視していました。
いややっぱ…リュートって美しい楽器なんだよな……しみじみ……。
現代のギターなどと比べてささやかな音量の楽器であるリュートですが、その音色が持つ表情の柔らかさと繊細さに、やっぱり好きだな…という思いを新たにしました。
いつかは自分でも習ってみたいものです。リュートに憧れつつ大学のマンドリンサークルでマンドラを弾いたりもしたけど(形が似てたからという単純な理由で)、やっぱりリュートとは違う楽器だからね…。
本記事の読者さんに「リュート聴いたことないんだよな」って方もいるかもしれないのでお気に入り動画を貼っておきます。寝付きの悪い夜などにおすすめ。
ドデカリュート(テオルボ)もね、かっこいいのよ。
これらを聴きながら執筆したリュート弾きの掌編が、『十一月の春の庭』収録の「再生」だったりします。
ステンドグラスを通過した黄金色の西日は、かすかに俯く青年の喉元に影を落とし、丸みを帯びたリュートの背には甘やかな光沢を落とした。リュート、アラビア語の「樹木」に由来する美しい楽器、その背は艶やかな樫の実に似て、胸元にはロゼッタ、薔薇の名を冠したサウンドホールが幾何学的な透かし彫りで刻まれる。空洞から響く音色のやさしいこと……
閑話休題。朗読後の特別講演は、デンマーク文学研究者の奥山裕介さんによる『ゲルマン諸語圏おとぎ話の「動物聟」について』。大学生のころを思い出しながら、レジュメにびっしりメモを取るひとときを過ごしました。
西洋における心身二元論(精神と身体/人間と自然)対立構造との絡みだとか、キリスト教圏でロバが担ってきた象徴(物質・粗野・下層/その一方で聖書の逸話から神性に反転することも)とか、民衆の祝祭における道化(ロバの被りものをした楽師)との共通項とか。ギリシャ/ローマ神話との繋がりとか。異類婚姻譚における、動物が人間に変身する類型について……いや〜楽しかった……。ロバの他にもいろいろある、結婚を申し込んでくる動物たちの童話についてもお話を聞けて実に面白かったです。シロクマのお婿さんとか。
リュート奏者の永田斉子さんによる、ロバとリュート弾きというモチーフについての解説も聞き応え抜群でした。
ロバがリュートを弾く、という、荒唐無稽に思えるそれが、イソップ寓話にも登場するとか、元々は竪琴だったとか(AD500年くらいには「竪琴にロバ」というラテン語格言が存在するのだそう)。グリム童話(19世紀半ば)の頃、ヨーロッパでは既に衰退していたリュートが、ドイツではリュートギター(ドイチェ・ラウテ)に変化しながら比較的長く生き延びていた話とか。(帰ってから調べたら、リュートギターの前身がマンドーラで、ここからマンドリンも派生したらしいです。へえ〜〜)
このお話と、ドイツリュートの写真、再話元のグリム童話版『小さなロバ』の挿絵を拝見したことで「ロバの王子が持ってるリュート、いわゆるルネサンスリュートとはなんでか形が違うんだなぁ〜」と長年感じていた疑問が氷解しました。グリム童話版挿絵の時点でそもそもなんか…ルネサンスリュートの形じゃなかった…!!(参照:『小さなロバ』ドイツ語版wikipedia、掲載挿絵より。こちらの挿絵自体は1909年とのことで、グリム童話からだいぶ時代が降っていますが、たぶん古楽器としてのルネサンスリュートはまだ復興半ばの頃じゃなかろうか)
バーバラ・クーニーが『ロバのおうじ』の絵を描くにあたって、グリム童話含め19C〜20Cに描かれた挿絵を参考にしたのかしら〜とか色々思いを馳せました。
というか、『ロバのおうじ』の元ネタがグリム童話なのは知ってたけど、そのさらに元ネタが14世紀?ラテン語の物語詩『アシナリウス』まで遡れるとか完全に未知の世界でした。テンションだだ上がり。楽し〜〜! いつか英訳版にでも触れてみたいですね(かなり俗っぽい内容とのことですが…笑)。
『ロバのおうじ』自体が1979年翻訳(たしか原書の本国刊行が1976-77くらい?)の新しい作品であり、グリム童話版から現代向けアレンジがけっこう入ってるところも、何百年にもわたって変化しながら伝わってきた物語の末裔ということなんだよな〜と、改めてしみじみ感慨を覚えます。
自分用に参考リンクいろいろ貼っちゃう。
- グリム童話版『小さなロバ』
- 19世紀〜20世紀の『小さなロバ』挿絵
- リュートってどんな楽器?【5】古典派から現代まで ※18-19Cのドイツにおけるマンドーラ、リュートギターの写真あり
レジュメと一緒に参考文献リストも頂けたので、機を見つけてもっと深堀ってみたいですね。アプレイウス『黄金の驢馬』(AD150ごろ)もな〜〜変身譚を調べるとだいたい言及されてるからいつか読んでみたいと思ってはいるんだ……。
総じて、とても楽しいイベントでした。足を運べて良かったです!